GNSS衛星から地球上の受信局へ送信された信号は,地球の表面付近に到達すると,電離層や対流圏といった地球大気の層を通過します.地球大気は,電波の伝搬速度や経路に変化をもたらすため,GNSS信号が受信局に到達するまでに遅延が生じます.この遅延量のうち,主に水蒸気に起因する部分を取り出すことで,対流圏の単位気柱に含まれる水蒸気量を推定することが可能となります.

単位気柱に含まれる水蒸気の量は「可降水量」と呼ばれ,GNSSによる可降水量は,気象測器を用いて各高度の水蒸気量を鉛直積分した”実測”の可降水量とほぼ同等の精度で推定することができます.現在では世界の気象機関において,日々の気象予報モデルに入力される水蒸気観測のデータの一つとしてGNSS可降水量が活用されています.既存の気象測器を用いた可降水量観測に比べ,GNSSは高時間分解能に観測できるのも利点の一つです.

一方で,水蒸気はさまざまな時空間スケールで変動するため,既存の観測網では十分な解像度がなく,変動を正確に捉えることができない場合があります.そこで本コンソーシアムでは,超稠密なソフトバンク独自観測網の基準点を活用し観測網を拡充することで,これまで観測できなかった局所的な水蒸気量の変動や急激な変化を把握しようと,研究が進められています.例えば,積乱雲が急速に発達する状況下では,発生から衰退までの間において,水蒸気の時空間スケールでの変動がどのように起こるのか,また豪雨や豪雪などの極端な気象事象においては,観測される可降水量の程度,特に持続的に流入する水蒸気の量的把握やその地域的な特性などが,研究テーマとして注目されています.

地球温暖化の進行により,降雨・降雪現象は極端化しつつあることがこれまでの観測結果などから示されています(気象庁ホームページ※).このような降雨や降雪現象の源となる水蒸気の量的観測は,現象の理解を深めるためにとても重要なデータとなります.高分解能で水蒸気の変動を詳細に解明することで,気象予測の精度向上への貢献も期待されます.

https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/index_extreme.html